SSブログ

目黒の隠れ家で精進料理を [[恵比寿]プチグルメ紀行]

世の中には偶然というものがある。僕とサクラコの結婚式を担当してくれたブライダルコーディネーターである、ミポリン(仮名)という人物がいる。たいへん有能な人物で、我々の入魂のハデ婚実現は彼女なくしてありえなかった。
僕らの挙式直後に寿退社し、今はまた新しい会社で働いているということまでは聞いていた。
ところがなんと、彼女は現在、我が悪友筆頭のフジイの部下だというのだ。驚くべき偶然のめぐり合わせ。
そんなわけで、フジイ、ミポリン、僕とサクラコの4人で食事をすることに。

場所はフジイのオススメで、目黒本町にある「蔬菜坊(そさいぼう)」。
完全予約制、料理は基本的にコースのみ。座席数はわずか15席程度、住宅街の奥地にある隠れ家そのものである。基本的に一見さんは入れない。これはガンコだからそうしてるのではなくて(笑)、料理の準備に時間がかかるため、ぶらりと入ってこられても対応できないからだ。

「蔬菜料理」というのは基本的に精進料理のことと思えば良いそうである。精進料理の極意については僕もよく分かっていないので、興味のある方は調べていただきたい。もしくは池脇千鶴の出世作「ほんまもん」でも観てくれ。

さて、こじんまりした畳敷きに座ると、まずは胡麻豆腐。精進料理の定番お通しである。とても肌理細やかな歯ざわりで、今後の料理に期待がふくらむ。

続いて、蔬菜料理のメインである、お膳が出てくる。
お膳には、正月らしい梅の枝の飾りが施してある。そして、だいたい一握りにも満たないくらいの料理の椀や皿が20個近くも所狭しと並べられている。いずれもかわいらしく目で楽しめる。味噌や果物、山菜など一つ一つが強い存在感を醸しているので、一つ一つ丁寧に味わいながら食べる。すると、不思議なことに、一つ一つを作っているときのご主人のワクワク感というか、この料理で楽しんでもらおうというシーンが目に浮かんでくる。手がかかっていることが味わうだけで分かる。

ここでちょっとネガティブなことを言ってしまうけど、食べ物を評するときに、うまいかまずいかということを一面的に語る人がとても多い。「自分の味覚に適しているか」「自分の期待に適しているか」という点を中心に食べ物を語ると、食べたことがないものや、テーマに変化を持たせたものに対する寛容性が狭くなってしまう。自分のちっぽけな見識から飛び出せないというのはとても不幸なことだ。良いもの、というものが必ずしも自分の都合にぴったりくるというわけではないということを知るべきだ。値段や量、文化的背景というのは複雑に絡み合っているので、それに適した評価をすべきだと思う。
そんなとき―自分の経験で判断しきれないときにおすすめなのが、「この料理は、どのくらいの情熱と努力で生み出されたものか」を想像してみることだ。そして、その料理に込められた「もてなす心」、これが感じられればもうだいぶいい感じだと思う。食べ物を楽しむということは、料理人のもてなしを受けるということに他ならない。心性の表現発露として単独でも存在できる絵画や音楽とは少し違って、料理は必ず「食べさせる」ことを目的としている。ここに必要な最大のポイントはもてなしの心なのだ。ところが、生来「人をもてなす」ことに慣れていない人ほど、その「もてなしの心」が分からずに的外れな評価をする。別にほうっておけばよいのだろうけど、そういう評価はアンフェア、間違ったことだと思ってしまう。
※これは「懐石料理」の名前の由来から考えても、日本料理の極意なんじゃないかと思っている。

閑話休題。
ここの蔬菜料理には、そのもてなしの心があふれんばかりだ。その証拠に、ご主人がとても楽しそうに料理の説明をしてくれる。いかに感覚を研ぎ澄ましてもそこまでは分からないよ、という「作り手側のストーリー」。料理を楽しむ上でとても大切なものだ。ウンチク大歓迎。
さらに、蔬菜(精進)料理だけあって、自然や食材に対する尊敬・親愛の心が料理作りにとてもあらわれている。否、「自然や食材が語りかけてくるような」気すらした。

さて、この「蔬菜坊(そさいぼう)」は決して禅寺ではないので、実は「蔬菜料理もある、総合的日本料理屋」だったりする。つまり、コースをお願いすると、蔬菜料理で始まりつつも、お刺身や鶏肉などをいただくことができる。

刺身。これも見事だった。昆布や酢でしめられたものは一流の懐石料理だったし、魚以外も―こんにゃくまで美味しい。それに、「女将さんはあまりにもったいないから出すなと言った(笑)」鮭児(けいじ)まで盛られていた。鮭児は、とても脂ののった鮭のトロという感じで、味わうとちょっと卵というか雲丹っぽい香りが広がった。もちろん鮭児を食べるのは僕もサクラコも初めて。
※「幻の鮭:鮭児とは」 http://www.siretoko.com/infokeiji.htm

鍋。これも、なるほど、鍋というものはこういう考え方もあるのかというものだった。
最初はしょうゆっぽいすまし出汁なんだと思ったら、なんと香ばしい焼き味噌を溶かしこんで、柔らかな味噌鍋に変わる。具材も全てかなり綿密に仕込んだ「かやく」に近いもので、いわゆる野菜をそのまま放り込むというスタイルではない。
この頃にはだいぶ酔っ払っているので具体的な具材をだいぶ忘れてしまったのだが、「何度も雪にさらして水分を抜いて作る幻の豆腐」というのがあって、これが不思議に美味しかった。このように、一つ一つは作りこまれた超個性派の具材でありながら、丁寧な設計で調和のとれた鍋になるというのは驚きがあった。

振り返ってみると、とにかく初めて食べるものばかりだった。コースのメニューは季節によって完全に変わり、ひょっとすると同じものは二度と食べられないかもしれないとのこと。これはフジイが月に二回は通うという理由が分かる。
そして日本酒。全ての料理に日本酒が本当にぴったり来た。したたかに近いほど酔った(笑)。満腹、満足。

気さくで人懐こく、食べて喜んでもらうのが何より楽しいといった風情のご主人と、店のスポークスマン、ブランドイメージだろう堂々たる女将さん。この二人も絶妙だった。女将さんのお説教を聞きに通いたいという気持ちすらある。女将さんは美人で、作務衣(さむえ)を着ていてもセレブの風格が漂う不思議な人物だ。そしてご主人よりもだいぶ上を行くのんべえらしい(笑)。

再訪を誓いつつ、できればあんまり皆に知らせたくない精神の隠れ家だった(笑)。
フジイによい店を教えてもらった!


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(1) 
共通テーマ:グルメ・料理

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 1

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。